狼姫と野獣

「ごめん、そんなぶっ飛ぶと思わなかった」

「今の話聞こえた?」



快は片手を差し伸べて起き上がらせようとしていたけど、唯は自分でスクッと起き上がって質問する。



「あー、いや。
……ごめん、盗み聞きみたいになって」



やり場のない手をそっと降ろしながら快はバツが悪そうな顔をした。

……その顔するってことは、迷惑だったってことだよね。



「カイくん素直〜。で、何しに来たの?」

「永遠に用事。迎えに来たって刹那が呼んでる」

「なんでカイくんがそれ伝えに来るの?パシられたやつ?」

「いや、なんか刹那が……永遠が怒ってるみたいだから直接言いにくいって」

「……は?」



暗い気持ちは、刹那の意味不明な行動によってかき消された。

ひょっとして、今朝睨んだから?



「ケンカ?」

「ううん、たぶん大事なものを盗られそうになって怒ったからだと思う」

「えー?永遠温厚なのに怒らせるとかよっぽどじゃん。
……あ、やば。急いで帰らなきゃだった。
じゃあふたりとも、ばいばーい」



行動に予測のつかない唯は走り出して、階段の方からばいばいと聞こえてきた。

挨拶する間もなく帰ってしまって、教室にふたり取り残された。