狼姫と野獣

その言葉には、立ち止まらずにいられなかった。



「………」

「先月永遠が快に会いに来たじゃん。あの後あいつすげえ荒れてて……意味わかんねえの。
ただ嫌いだったらそこまで引きずらない。好きだから苦しいんだろうなって感じ」

「それは桐谷から見て、でしょ?」

「あいつ、これまで関係持った女全員永遠に似てんの。黒髪で清楚な感じ?絶対永遠意識してる。これで無意識だったら相当やべーわ」

「そういうのがタイプなんじゃないの」

「って俺も思ってたの。だから隆二さんに牽制(けんせい)したのはびっくりした」

「……牽制?」

「隆二さんが永遠のこと狙おっかなって話してたら快が口はさんできて。普段そういうこと言わないくせに一丁前に牽制してんの。
で、隆二さんから『あー、お前ああいうのタイプだもんな』って言われた翌日全員と関係切ってきてさ……なに、反抗期?俺、ウケる通りこして引いた」

「意味わかんない」

「俺もそう思う」



足を止めなきゃよかったって後悔した。

快が他の女の人と関係持ってるなんて知らない方がよかったし、そんな憶測で好きとか言わないでほしい。

桐谷になんて言われようが、快に直接言ってもらえなきゃ意味がないんだよ。



「快のこと諦めないで。俺からのお願い」



遠ざかる私の背中に投げられた言葉。それは胸の奥に突き刺さってきて抜けなかった。


「なに、それ……」


下駄箱に着いて、口からこぼれる震えた声。

桐谷の話を聞いてちょっとでも期待した自分の心を殺してしまいたい。

改めて私もまだ好きなんだって痛感して苦しかった。