狼姫と野獣

「あの、総長呼んできます!」

「いいって、そういうのだるい。俺もう帰るから」



桐谷は倉庫に向かって走り出したけど力さんの声に戻ってきた。

そしたら嬉しそうな顔をしながら力さんの前まで来て両手を差し出した。



「じゃあ……握手してください」



え、ちょっと……マジで誰!?

桐谷がさっきから別人すぎて笑えない。



「事務所通してから言ってくださーい。
てか力さんはアイドルじゃないんだけど」

「は?アイドルよりもっとすげーよ。
今も語り継がれる伝説……黒帝が最強の時代の総長だぞ!?」



冗談を言ったら本気で噛みついてくるあたり、力さんへの気持ちは本気らしい。

桐谷って普段何考えてるか分かんない感じだけど、年相応なところもあるんだって安心した。



「でも今は力さんはウチのです!」



だけど桐谷なんかに譲るつもりは無い。

私は力さんに抱きつきながら桐谷を睨んだ。



「……だそうだ。残念だなガキンチョ」



力さんは私の気持ちを分かってくれたみたいで握手をせず車に戻った。

桐谷はちょっと悲しそうな顔で後ろ姿を見つめている。

かわいそうなことしたかな?

でも、私も桐谷に結構ひどいこと言われてきたもん。

これくらいのいじわるは許してよね。