狼姫と野獣

「我慢することは偉いことじゃねえ。
まったく、娘にまで同じこと言うようになるとはな」



なんで、抱きしめるの?

私はお父さんの最愛の人を、お母さんを傷つけたのに。

ううん、傷ついたのはお父さんだって同じはずなのに。



「なん、で?」

「ん?」

「私、ひどいこと、言ったのに」

「大丈夫、俺は何十回も両親に同じこと言った。もっとひどいこと言って、永遠が大好きなばあちゃんを泣かせたこともある」

「お父さんが?」

「ああ、親に反発したくなる気持ちはよく分かる。
むしろ思春期なのに全然不満が出ねえから、大丈夫かと思ってたところだ」



お父さん、そんなこと言わないでよ。

ずっと我慢してたのに涙が出てきそう。



「よしよし、ごめんな。つらかったろう」



小さい子をあやすみたいにぎゅっと抱きしめながら頭をなでてくるから、もう限界だった。

ひとりでにポロポロ涙が出てきて、嗚咽がとまらなくなって、お父さんの胸の中で泣きじゃくった。

泣きながらお母さんにちゃんとごめんなさいって謝って、仲直りした。



──初めて親に反発した15歳の冬、本気でぶつかり合うのも大事なんだと知った。