狼姫と野獣

家に帰ったら、玄関にお母さんとお父さんが並んで立っていた。

お母さんは不安そうな顔をしている。

ああ、嫌だな。ちょっと外に出ただけなのにそんな顔されるなんて。

改めて普通じゃないって思い知った。



「永遠、なにがあったの?」

「……学校に忘れ物したから、取りに行こうとしただけ」

「ひとりで?」

「私のために車出すのも迷惑かかると思って」



お母さんの顔をちゃんと見れなくて下を見たら、両膝から血がにじんでる。

熱を帯びてじんじんと痛い。

だけど胸の奥の方が、もっと痛い。



「迷惑なんて思わないよ。永遠に何かあったらと考える方が家族はつらいから」

「分かってるよ」

「分かってるんだとしたらもう少し慎重になって。
私たちは普通じゃないの。本当に命を狙われることだってあるから。
ねえ永遠、いつもと違うことしどうしちゃったの?」



お母さんに手を握られ、やんわりと忠告されて気づいた。

私は多分、『普通』に憧れてたって。

だって、きっと私が普通の家の子だったら快にあんなに恨まれなかった。



「ねえ、永遠──」

「お母さん、わたし……」



普通の家庭だったら、こんな苦しい思いをしなが生きなくてよかった。





「普通の家庭に生まれたかった」





ずっと、ずっと心に秘めていた想い。

口に出たそれは本心だった。