だけど恨んだって何も起こらない。

分かってるからこそ、何も出来なくて。

何も出来ないまま時間だけが過ぎていた。





そして今年の夏、真面目だったお兄ちゃんは若頭になるために高校を辞めた。

そのストレスからなのか、女遊びが激しくなって家にほとんど帰らなくなった。

……なんでそこまでして跡を継ぎたいなんて思うんだろう。

ヤクザなんてろくでもないのに。




「ノワール、ご飯だよ」



朝、暗い気持ちのままネコにご飯をあげようと声をかけた。

2年前に唯から譲り受けたあの子猫に未練がましくノワールと名付けた。

ノワールは頭の先からつま先まで真っ黒の綺麗な成猫に成長して、私に懐いてくれている。



「ノワール?」



だけど珍しく「ごはん」の単語を出しても来ない。

不審に思って部屋を出たら、玄関の方からノワールが甘えた時に出す鳴き声が聞こえた。

……もしかして。



「やっぱりお兄ちゃんだ。久しぶり」



噂をすればなんとやら。

玄関に出たら、(きずな)お兄ちゃんが帰ってきていた。