これは夢だと思いたかった。
だってこれで母さんと晴が死んでしまったら、理不尽すぎる。
あれだけ苦労したんだ。報われなきゃ意味がない。
だけど駆けつけた警察から「お母さんと連絡が取れない」と聞いて絶望した。
未成年だから一旦警察に保護してもらって夜を過ごした。
明け方、遺体は2体見つかって特徴からしてお母さんと妹だろうって言われた。
ガン、と鈍器で殴られたみたいな衝撃が身体を走る。
父親に花瓶で殴られた時もこんなに痛くなかったのに。
夜が明けたら警察と消防、両方から事情聴取をされて悲しんでいる時間すら与えてくれなかった。
「辛いだろうけど話してほしい」って同じことを言われて、ああこの人たちは仕事として慰めてるんだって思った。
なんで?なんで母さんと妹が死ななきゃならない?
世の中には他に死ぬべき人間がたくさんいるのに。
ぐるぐる回る思考回路。整理が追いつかない感情。
それでもやることはやらなきゃいけなくて、大体の手続きが終わったあと、夜に燃え尽きた家に帰ってきた。
親戚なんていないから全部自分でしなきゃいけない。
入口にある郵便受けの前を通った時ブブ──と俺の家のポストから振動音がした。
中を開けるとなぜか母さんの通帳とスマホが入っていた。
なんでこんなところに入ってるんだろうとは思わなくて、たくさん通知が来ているスマホの電源を切った。
その通帳とスマホを持って外へ出たら、人影が見えた。



