狼姫と野獣

割れた窓から燃え盛る真っ赤な炎が顔を出す。

熱が数十メートル離れたここからでも伝わった。

野次馬の怒鳴るような声と、上の階から助けを求める叫び声が聞こえる。

必死に指示を出す消防士は部屋に向けて放水をしていた。



「晴……母さん!!」



状況を理解して野次馬をかき分けて無我夢中で走ったら、誰かに腕を強く掴まれた。



「危ないから下がって!」

「俺たち家族が住んでる家なんです!
足の不自由な妹がいて……早く助けてください!」





俺の声を聞いたその消防士は俺を掴んだまま無線で救助要請を出した。

俺は叫んで、叫んで声の限り家族の名前を呼んだ。

なんでこんなことに、なんて思う余裕もなく火が消えるのをただ見守るしかなかった。

やがて夜空が暗闇に包まれる頃、炎は残酷に一室全て燃え尽くしてやっと鎮火された。