狼姫と野獣







「ネコ飼うことになったんだ」



朝のバイトを終わらせて学校に行ったら、永遠が嬉しそうに話しかけてきた。

疲れを吹き飛ばすような笑顔に癒される。



「唯の家で飼ってるネコちゃんが産んだ子なんだけど一目惚れしちゃって」

「へえ、どんなネコ?」

「黒猫なの。1ヶ月後にもうちょっと成長してから飼うことになってるんだ。ふふっ、楽しみ!」

「よかったな」

「うん!あ……それで、あの……お願いがあるんだけど」



永遠は嬉しそうに笑うと、俺の目を見ながら恥ずかしそうに呟いた。

そういう仕草、誰にも見せるのかな。

なんて、付き合ってもないくせにそう思う自分がだいぶ気持ち悪いと思う。



「快に名前を付けてもらいたいんだ」

「……ん?」

「ネコちゃんの名前、いい案が浮かばなくて。よかったら快に名付け親になってほしいなって思って」

「俺でいいの?」

「うん!」



でも永遠は、結構俺のこと特別扱いしてるんじゃないかな。

好意のない人間にこういうことは頼まないだろうから嬉しい。



「んーー……。
黒猫だからノワール……って、無難すぎ?」

「ノワール……フランス語だっけ?
オシャレでいいと思う、ありがとう!」



すると嬉しそうにクラスの女子の方に駆けていって「ノワールにしようと思う!」と笑顔で話しかけていた。

永遠は、純真で無垢で綺麗だ。

住む次元が違う──きっとこの表現が正しい。

だから俺が永遠のことを好きだなんて、ましてや想いを伝えようなんて、おこがましい。



「永遠、今日の放課後は大丈夫?」

「うん、空いてるよ。どうかした?」



それでも、気を引こうと話しかける俺はバカだ。



「母さんがそろそろ誕生日だから、プレゼントを買おうかなって。
永遠、ついてきてもらっていい?」

「そうなんだ!私で良かったらぜひ」



ほんとは永遠じゃなくていいし、なんならひとりでも買いに行ける。

永遠と約束をしたのは単に一緒にいたいから。

家は貧乏だからスマホを持ってない。だから学校で会う以外に永遠と関わる手段がない。

だからせめてこれくらいの独占欲は許して欲しい。