狼姫と野獣

side 快


永遠に相談ができなかったから、その日はバイトに入った。

暑い中働いて疲れた俺は家に帰ってすぐ寝てしまった。







「はい、はい……申し訳ありません。もう少しで用意できるので」



うだるような暑さの午前4時。母さんの声で目が覚めた。

寝床から身体を引き剥がし声のする方へ向かう。



「いえ、お願いです……家には来ないでください」

「母さん?」



俺の声が耳に届いた瞬間、母さんはスマホを耳から離して会話を終わらせた。

暗くて顔が分からない。けど、いい表情はしてないだろうなと思った。



「快、早いじゃない。まだ寝てていいのに」

「どっちにしろ5時からバイトだからもう起きるよ。
それより今の職場から?大丈夫?」

「大丈夫、ちょっと仕事で失敗しちゃって」



母さんは家計を助けるため、仕事を2つかけ持ちして身を粉にして働いている。

たぶん今の電話はパチンコ屋だろうな。スーパーに務めてる人間がこの時間にかけてくるとは思わないし。

それにしてもこんな時間に電話かけてくるなんて非常識だな。



「……無理しないでね、母さん。俺も頑張るから」

「ごめんね、快にばっかり負担をかけて」



暗がりの中、母さんの震える声がリビングに響く。

その背中は泣いているように見えた。