「……そんなことよりお兄ちゃんは!?」

「え?」

「琥珀が攫われたんだよ。誰よりもつらいのはお兄ちゃんだよ。
今どこにいるの?」



私がショックを受けてる場合じゃない。

何よりつらいのはお兄ちゃんだ。

しっかりしないと、ただ呆然と悲しんでるだけじゃダメだ。



「絆はたった今ここを出て大阪に向かった」

「……お父さん」



その時、お父さんの声が背後から聞こえて振り返った。

お父さんは厳しい表情でこっちに歩いてくる。

お父さんの不安を感じとって恐怖が喉元にせり上がってきた。



「お父さん、琥珀が言ってたの。
狙われるなら私だって。
琥珀、何か知ってたみたいで。
……このことをみんなに伝えておけばよかった」



後悔したって遅いのは知ってる。

泣いても無駄だって分かってる。

苦しいのはお兄ちゃんなのに何も出できない自分が嫌だ。

服の袖で涙を乱暴に拭う。

お父さんはそんな私の腕を引き、優しく抱きしめてくれた。