狼姫と野獣

「……あっ、そういえば桐谷は?」



だけど、こんな場面桐谷に見られたら気まずい。

辺りをキョロキョロしていたら頭を押さえられて快の胸に頭を預ける形になった。



「今日、桐谷いねえから」

「そう、なんだ。……気使ってくれたのかな」

「そうっぽい」



心なしか快の鼓動が早くて私もドキドキする。

ってことは本当にふたりきりなんだ。

そう思うとなぜか面白くなって笑ってしまった。

快は「どうした?」と視線を合わせる。



「桐谷も成長したなって。昔のあの人ならちょっかいかけてきそうじゃない?」

「出会った頃の桐谷なら確かにそうかも。
……でも刹那なら絶対茶化してくるよな」

「間違いないね。じゃないとお父さんにたてつかいもん」



抱き合ったまま笑って快の胸に顔を押し付ける。

泣いたり笑ったり忙しい。

でも忙しない感情でも幸せって気持ちに変わりはない。

まだ会ったばかりだけど、ここに来てよかった。