狼姫と野獣

「……なんで刹那がそれを?」



桐谷は不安そうな顔で俺を見る。

こいつ勘違いしてんな。



「安心しろ、荒瀬組は関係ねえよ。殺したのはバックにいたはずの半グレだ。
荒瀬組なら証拠ひとつ残すかよ。
おそらく荒瀬組の連中がやったと見せかけた殺人だ」

「え、マジかよ……」

「その半グレ、荒瀬組にサイバー攻撃しかけてきてんだよ。
ウチには腕の立つ情報屋がいるからなんとかなってるけど、最悪抗争になるかもって」



抗争、というと2人とも張り詰めた表情に変わる。

そうだよな、暴走族の抗争とヤクザの抗争じゃ規模が違う。


「言いたい意味分かる?」


そう聞くと2人は押し黙った。



「永遠を“相川壱華”を巡って起こった抗争の二の舞にはしたくない」



今から20年前に起こったヤクザ同士のデカい抗争。

そのすべてのきっかけは母さんだった。



「けど、永遠は母さんほどの影響力はない。
永遠が人質にされたところで組は動いてくれない。
ヤクザってのはそういうもんだ」



もし永遠がその状況になったら。

家族は死に物ぐるいで永遠を助ける方法を探すだろう。

けど、周りの連中は十中八九永遠を見捨てる。

それが分かってるから俺は今日ここに来た。