狼姫と野獣

「俺は諦めろなんて言わない。納得いくまで自分の気持ちを伝えろ。
俺は壱華を諦めなかったから今こうしてお前と話せてんだ」


予想外の言葉にこらえていた涙がポロ、とこぼれ落ちた。

お父さん、否定しないの?

今回ばかりは諦めろって言われると思ってたのに。


「壱華がいなけりゃ家族を持つこともなかった。
壱華は俺にとってのかけがえのない唯一無二だ」



他の人とお父さんでは言葉の重みが違う。

だってお父さんは命がけでお母さんを救い出した。

身体に残る銃弾の後がそれを物語ってる。

その覚悟を知った上でお父さんは否定しないんだ。

私にとってはそのことが何より嬉しかった。



「遠山快……そいつは永遠にとっての唯一だろ」

「……うん」


心の奥底、まぜこぜになった感情がようやくほどけて涙が止まらない。

お父さんは「おいで、永遠」と腕を広げて私を迎え入れてくれる。

お父さんの香水と煙草の匂いがなんだか懐かしい。


「一度手に入れたものを譲れねえんだろ?
そこだけ俺に似ちまったな、他は壱華そっくりなのに」

「でも私、お母さんみたいに強くない」

「壱華は強くなったんだ、最初から独りで強くなれる人間なんていない。
大丈夫だ永遠、お前はひとりじゃない。きっと強くなれる」

「……ありがとう、お父さん」



大丈夫、お父さんに励まされると根拠はないけど本当に大丈夫な気がする。

勇気づけられて泣きながら笑う。

お父さんはそんな私を見て優しく微笑んだ。