狼姫と野獣

「ふたりが鉢合わせたのは俺がケガした永遠を連れ込んだから。
それにお前が傷ついたら永遠が悲しむだろ」



刹那は頭がいいから下手な嘘はよくない、相手の出方を見図ろう。

すると刹那は俺の目をじっと見つめ、うっすら笑った。



「あー、そういうこと」

「何が?」



「……お前、永遠のこと好きなんだ」




一瞬、思考が停止する。

何言ってんだこいつ。

今の発言のどこからそれを察した?

この時俺は、荒瀬刹那という人間の本質を理解していなかったと気づいた。

こいつ、俺の思ってるよりずっと頭が切れる。


「図星?」

「っ……」


言葉に詰まって何も言えねえ。

これが荒瀬組後継者の『雅狼』。

言葉巧みに人を支配する天才。

俺たちとは住む世界が違う。



「いいよ、快よりよっぽど大事にしてくれそうだし」



笑えない冗談を残して刹那は背を向ける。

集まった野次馬は恐れをなして塞いでいた出入り口から離れる。


「けど、ウチの家族が許すかなぁ。
特に両親は黒帝のこと毛嫌いしてっから」


不意に振り返った刹那は快を睨みつけた。


「なんでか知ってる?知るわけねえか」


どこか小馬鹿にしたような笑い声が反響する。

突然現れ嵐のように去っていった刹那。

しばらく誰も動けなかった。