狼姫と野獣

「ぐぁぁっ!」



万が一に、とお父さんが持たせてくれた催涙スプレーが役に立った。

今のうちに逃げなきゃ、早く!

声を聞いて駆けつけてくれる人もいるはず。

あえて人通りの多い道を選んだはずなのに、今日に限ってなんで誰もいないの?



「てめぇ、待てや!」



後ろから追ってくる男の怒号。

驚いた拍子によろけて転んだ。



「……助けて!」



一か八か叫んだら、前から人の足音が聞こえてきた。

男の息遣いが近い、誰でもいいから早く来て……!



「永遠!?」



立ち上がって痛む足で走り出したその時、私を呼ぶ声がした。

顔を上げるのそこにいたのは桐谷だった。



「よかった探してたんだ!
こいつらがこの辺で元百鬼の総長を見かけたって」



……助かった?

こいつら、と言われて桐谷の後ろを見るとあの日コンビニで会った黒帝のメンバーがいた。

彼らは私の後を追いかける男を見つけると顔色を変えてそっちに向かっていく。


「待って、危ない!」

「永遠は自分の心配をしろ!
なんでひとりでここにいんの?荒瀬の人は?」

「今日は買い物してから帰るって伝えてて……」

「そういうことか……とりあえず黒帝の倉庫に来て!」


桐谷に手を引かれ走る。大通りを抜けて、その後桐谷のバイクに乗って目的地に向かった。