狼姫と野獣

「てかさぁ、学校から家近いんだから歩いて行っても良くね?
ここ荒瀬のシマだから少しくらい大丈夫だろ」



文句を言いながら家に帰ってきた刹那。

仕方ないじゃんと言おうとしたら、リビングから誰か出てきた。



「馬鹿、母さんなんて本家の門の前で撃たれたんだ。
用心するに越したことはない」

「……え、父さん?」



見上げる高い身長、よく響く声、力強い眼差し。

俳優みたいにカッコイイこの人は私たちのお父さんの荒瀬志勇(あらせしゆう)

本当の職業はヤクザだけど、家ではいい父親だ。



「なんでいんの?」

壱華(いちか)に3日会えてなかったからもう限界だ」

「あ、ふーん……」



壱華──お母さんに会いたいから帰ってきたらしい。

本当にお母さんのこと好きなんだな。

そう考えると私も嬉しい。



「なんだその生返事」

「ふーんって言っただけ、他意はないって」

「ならいい。……永遠、学校には慣れたか」



刹那から視線を外したお父さんは私に話しかけてきた。



「うん、友達できたよ。唯っていう子、猫みたいでかわいいの」

「そうか」



安心して笑うお父さんは、私に甘いと思う。

兄弟の中で唯一の女だからっていうのもあるけど、うんと甘やかしてくれる。

するとお父さんは穏やかな表情でリビングに戻っていった。



「え……俺の心配は!?」

「お前はどこでも上手くやっていけるだろ。
男だし特に心配してない」

「俺、黒帝に勧誘されて迷惑してるんですけど!?」

「へえ、お前もか。大変だな」



あしらうみたいに対応されて、納得いかない表情の刹那。

そしたら本気の顔で「俺も女に生まれたらよかった!」なんて言うから笑ってしまった。