狼姫と野獣

「帰りたくないなら走りにでも行こう」


信じられない提案にやっぱりこれは夢じゃないかって疑う。

でも夢ならどうか覚めないで。

私は大きく頷いて、門ををくぐって敷地内に入った。

組員はまだ騒いでいる。さっきよりひどい具合だ。

私はそっとノワールを寝床に戻してひとり家を抜け出した。


元の場所で待っていてくれた快は私をコンビニまで連れてきた。

そこに停まってた大きなバイクの前まで来るとヘルメットを渡してくれた。


「それ桐谷のだから中ワックス臭ぇかも」

「大丈夫、いい匂い」


もらったヘルメットを被って、本当に連れていってくれるんだって心が踊る。

どんな風の吹き回しでもよかった、今はこんな近い距離に快がいてくれるから。


「ニケツすんの初めて?」

「ううん、力さんのバイクによく乗せてもらってたよ」

「へえ」

「刹那なんて小学生の時自分で運転してすっごい叱られてた」

「あいつやっぱヤベーな。なんで燈と気が合わねんだろ」

「同族嫌悪だと思う」

「あー、そっちか」


桐谷のこと『燈』って呼ぶくらい仲良くなったんだ。

知らない快を知れて少し嬉しい。

快は慣れた手つきでバイクにまたがってエンジンをかける。

バイクのエンジン音ってなんだかドキドキする。

好きな人の後ろに乗るんだからなおさら心臓がうるさい。

高鳴る胸を抑えて私が乗り込むとバイクはゆっくり走り出した。