「どうしよう、ノワールがいない」


家の中でノワールを探してかれこれ30分経った。

たぶんもう家の中にはいない。こんなに探して出てこないんだから。

案の定、刹那の部屋の窓が開いている。


「探しに行かなきゃ……」


最悪のタイミングでノワールが脱走した。

両親は旅行中、刹那はおばあちゃんの家に泊まっている。

お兄ちゃんは横浜にいるって言ってたし、今日に限っては力さんもいない。

組員は飲み会だって言ってどんちゃん騒ぎ。

騒ぎ声がここまで聞こえてくる。

……お父さんがいればここまで騒ぐことないのに。


知ってる、組員は私を格下に見てるって。

私には他の兄弟のような賢さもなければ度胸もない。

父親の威光がなければ何も出来ないただの“組長の娘”。

いかにお父さんが裏から手を回したって、尊敬に値しない年下の娘の言うことなんて聞いてくれない。

ヤクザの世界ってそういうもの。

使えないものは切り捨てる、ずるくて賢い人間だけが残っていく。