「その作品の著者はご存知かしら」
「なんとなく。先生と同じように、主に恋愛小説を執筆していた人気作家だったと思います」
「事件のことは知ってる?」

 それは・・・聞いたことがある。

「たしか失踪したんですよね。人気の絶頂で行方不明になった小説家」
「そう。そしてわたしは当時その担当の編集者だった」
「先生がですか?」
「うん。今のあなたと同じようにね。もう三十年以上も前のこと。年齢もちょうどあなたと同じくらいだった」