並べたコーヒーカップに沸騰したお湯を注ぎ、しばらく待ってから捨て、ここへ来る途中にあるコーヒーロースターで買い求めたドリップパックをセットする。

 そっと慎重にお湯を注いでから二十秒数える。この蒸らしが大切だ。そして少しずつお湯を注ぐ。それをお盆に載せてさっきの部屋に戻る。パソコンの横にコースターを置き、その上にコーヒーカップを載せた。

「できましたよ先生」
「ありがとう。いい香りね」
「季節限定のクリスマス・ブレンドです」
「近所に新しく出来たお店でしょう。あそこのご主人はコーヒーマイスターだそうよ」

 浜野先生はキーボードを打つのをやめ、こちらに椅子を回して微笑んだ。

 この人に担当になって四年経った。大学を出たばかりのわたしを一人前の編集者に育てあげてくれたのは、この浜野由梨絵(はまのゆりえ)先生だった。
 慣れたベテランより、変な癖がついていない新人がいい。その変わった希望の白羽の矢が立ったのは偶然であり、わたしにとってありえないほどの幸運だった。