「イネス様……!」

 はしばみ色をした王子様の目が、うっとりと潤む。
 無意識なのか、キリルの手がイネスへ伸ばされ、それに気づいた本人がハッとして恥ずかしそうに手を隠した。

 誰がどう見たってイネスにベタ惚れの様子であるキリルに、周囲は少々引き気味だ。
 彼の背後に控えていた男たちの唇がヒクッとしたのを、ピケはたまたま見てしまった。

「はじめまして。私の名前はキリル・ロスティ。どうか、キーラとお呼びください」

 声が上ずっている。
 まるで恋する乙女のようだ、とピケは思った。

 どうやら、うわさは本当だったようだ。
 ロスティ国の第一王子、キリル・ロスティは間違いなく、イネスに惚れている。それも、どっぷりと。

 キリルは、骨太で身長は高めだが、残念なことに少々──というには立派すぎるおなかを持っていた。一歩歩くごとにドスドスと音がしそうで、つい笑いそうになる。
 当たり障りない微笑みを浮かべるノージーの隣で、ピケは精一杯笑わないように気をつけた。
 堪えきれなくてプルプルしているピケに気付いたノージーが、こっそり体をずらして彼女を隠したが、キリルの背後にいた男たちも肩を震わせていたので、どっちもどっちだろう。