(うそなのかしら……?)

 もしもうそなら、良かった。
 たとえピケがノージーに恋をしなくても、彼は死なずに済む。
 だが、そう思う反面、残念だとも思う。
 女性しか愛せないくせに、ひどいだろうか?

 もしかしたらピケは、お伽話の主人公におとずれるような、感動的な出来事が自分に降りかかるかも、と期待していたのかもしれない。
 いじわるな継母と兄に虐げられたかわいそうな女の子、なんてお伽話の主人公にうってつけな設定だ。

 一見するとどこにでもいるようでいて、ちょっと変わった好みであるピケでは、恋をするのも難しい。ましてや、幼い頃に読んだお伽話のようなすてきな馴れ初めなど、あるはずもない。

(ノージーとの間になにも起こらないことが残念に思えるのは、きっとそのせいね)

 ピケは、物語の主人公になれるような人物ではなかった。
 それだけのことなのだが、ちょっと悲しい。

「ああほら、ピケ。もうすぐお城へ入るみたいですよ?」

 ノージーの声に慌てて視線を外へ向けると、馬車を引き止めていた門兵たちがサッと左右にはけていく。
 厳しい門が大きな音を立て開く様は、まるで馬車を食べようと舌なめずりしているようだ。
 ピケが思わずピクリと体を震わせると、ノージーがぴっとりと体をくっつけて、「大丈夫ですよ」と手を握ってくれた。