熱々の紅茶に、色鮮やかなジャム。ケーキは、皿の上をキャンパスに見立てて綺麗に盛り付けられている。
 テーブルの上は、舞踏会の会場みたいに華やかだ。

 手を伸ばせばすぐそこに、ピカピカ輝く金のフォークが置かれている。
 だというのに、ピケは身動き一つ取れない状況に陥っていた。
 正確に言えば、動けるには動けるけどそうしたい気分じゃなかった、というのが真相だけれど。

 向かいの席では、コーヒーで満たされたカップを片手にクツクツと笑い続けているアドリアーナがいる。
 笑いすぎでカップの中身が波打っていて、ピケはいつこぼれるかとハラハラした。

「ねぇ、そろそろ離してくれない?」

「いやです」

 グズグズしながら胸に顔を押し付けてくる青年に、ピケは嬉しいやら恥ずかしいやら。
 しかし、彼女の目はわかりやすく「好き」「離さないで」と訴えていて、手はふわふわの耳と耳の間──しっかりと伏せて撫でろと明示している──を撫で続けている。