イネス・アルチュールは女神テトの生まれ変わりである。
 誰がなんと言おうと、彼女は特別な存在なのだ、と。

 その後、左手を失ったガルニールは祖国へと戻され、テト神教にのめり込んでいった。
 異常とも取れるガルニールの行動に、妻は愛想を尽かして実家へ帰り、友人らは距離を置いた。
 止める者がいなくなったガルニールは、ますますあつく信仰していく。

 教会に描かれた女神テトは、見れば見るほどイネスに似ていなくて。私財を費やして、イネスに似せた。
 気づけば私財のほとんどを寄進し、その功績により枢機卿にまで上り詰めていた。

「あの時の御恩を、返す時がきたのだ……」

 これは、恩返しだ。救いなのだ。
 パチリとまぶたを上げたガルニールの目に、もう迷いはない。
 これが女神テトの生まれ変わりであるイネスのためなのだと、一片の疑いもなく彼は信じていた。