戦争が始まり、安全な城でただ待っているだけではなく、王族である自分にも何かできることがあるのではないか。
 イネスは考え、周囲の者たちとも相談した結果、負傷兵たちの看護の手伝いをすることになった。

 最初は良かったのだ。国王も「兵の士気が上がる」と大喜びだった。
 だが、敗戦の気配が漂うようになってくると、そうも言っていられなくなる。
 国王からは「城に戻れ」と命令がきていたが、日々増えていくばかりの負傷者たちを置いて、戻れるはずもない。
 再三にわたる命令を無視した結果、国王はイネスを見限ったのである。

 戦争が終わり、城へ戻ったイネスに待っていたのは、冷遇の日々だった。
 煌びやかな王宮から、掃除もまともにされていない冷宮での生活。あらゆるものが質素になり、侍女も来たり来なかったり。

「わたくしは、仕方がないと受け入れました。王命を無視したのです。殺されたっておかしくないのに、わたくしは生かされた。わたくしはそれを、父から贈られた最後の愛情なのだと思って、感謝していたくらいです」

「しかし、それをよく思わない者もいたのですね?」

「ええ、ノージー。その通りよ」