現金なことに、アドリアンの言い分に納得してみると、ノージーの胸の内にじわじわと喜びが湧き上がってきた。
 ロスティは力がすべて。その頂点に君臨する総司令官に見そめられたピケは、かなりの伸び代があるに違いない。
 さすが僕のピケ、とノージーは自分のことのように誇らしく思った。

 腕の中のピケを見下ろしてうっとりとしているノージーは、彼女のことしか見ていない。
 今しがたまで威嚇していた相手が無害だとわかるなり、もう興味を失っているようだった。
 あわよくば獣人と一戦交えることができるかもしれないと期待していたアドリアンは、残念に思う。

 獣人は基本的に、恋した相手にしか興味がない。
「この目は恋した相手を見るためだけに存在している」と言い放った獣人がいるほどである。
 その話を聞いた時、アドリアンは獣人というのは度し難い阿呆なのでは、と思った。
 人よりはるかに遠くを見渡せる視力を持ちながら、目の前にいる思い人しか映したくないとは、勿体なさ過ぎる。

「これが獣人か」

 アドリアンはつぶやいた。
 吐息混じりの声には諦めと、わずかばかりの羨望(せんぼう)が混じっている。

 獣人は、人族よりもはるかに強い。肉体も能力も秀でている。
 そんなに強い生き物だというのに、恋した相手に愛してもらわなければ消滅してしまうというはかなさも持っている。
 天は二物を与えずというが、強い生き物だからといって試練を課しすぎではないだろうか。