お城での暮らしは思っていたほど窮屈(きゅうくつ)ではないな、というのがピケの感想だ。

 ようやく始まった侍女になるためのレッスンも、お人形遊びの延長のような感覚で受けている。幼い頃は遊んでいる余裕なんてなかったから、ピケは楽しくて仕方がない。
 危惧していた貴族からの嫌がらせなどはまったくなく、イネスとキリルは見ているこっちが恥ずかしくなるほど順調に距離を縮めているようだった。

 そもそも、ロスティ国民は王族にそれほど関心を持っていないらしい。
 祭りなどに顔を出せばそれなりに騒がれるが、もしも国王と総司令官が同じ場所に現れたら、間違いなく総司令官の方へ人気が集中するくらいには、王族への人気は薄い。
 キリルとイネスとの婚約があっさりと通ったのも、そのおかげのようだ。

 他の国では信じられないことである。
 誰が王位を継ぐかで蹴落とし合うところもあるというのに。

 オレーシャから王都へ来て感じるのは、ロスティの人々の『強さ』に対する執着だ。
 老若男女問わず、ほとんどの人が圧倒的な強さに憧れを抱いている。

 一度、護身術のレッスン中に兵たちの模擬試合に遭遇したことがあったが、すごかった。
 戦っている者たちはもちろん、訓練場の周りをぐるりと囲むように形成されたギャラリーの熱量と言ったら!
 まさに血湧き肉躍るという言葉がぴったりな、暑い……いや、熱い空間だった。
 魔兎狩りが特技であるピケもつい熱くなって、むさ苦しいギャラリーに混じって声援を送っていたのは、ノージーに内緒である。