「もちろん最初は止めたけど、庇えば庇うだけヒートアップしていって。結局俺は彼女に関わらないようにするっていう選択しか出来なかった」

年下の初恋の女の子をそんな風にしか守れなかった悔しさは理解出来る。先程まで燻っていた嫉妬心は少し落ち着き、彼の話の続きに耳を傾けた。

「彼女が高校に入る頃には完全に疎遠でしたが、母親を通じてあすかちゃんの近況は聞こえてきました。もちろんその頃には俺にも彼女がいたりしたけど、学校であまり友達がいなさそうだという話を聞いて、俺にも原因の一端があるんじゃないかと悔やみきれなかった」
「それは、阿久津さんのせいでは」
「あすかちゃん、知らない女の子に呼び出されて人の彼氏取るなって身に覚えのない話聞かされて、何て答えたと思います?」
「……何と?」

思いつかず答えを促すと、阿久津さんは苦笑しながら教えてくれた。

「『告白されすぎてどの男がアナタの彼氏かわかんないけど。それって私のせいなの?』」
「……そりゃまた」
「守ってあげたくなるほど可愛かった彼女が、それだけ辛辣な言葉を言わざるを得ない環境なんだと腹立たしくなりました」

他人事ならどれだけ煽っていくスタイルなんだと笑ってしまうが、高校生だった彼女が腹に据えかね切り返したんだろうと思うとやり切れない。

「ここに来てくれるようになって笑って話してくれましたが、職場ではそんな事を言われないように男には近付いていないと」
「……そう、でしたね。以前までは」
「それがどうにも心配で」

まだ目を覚ます気配のない蜂谷を優しげに見るその視線には、確かに雄としての感情は見えず、兄が妹を思いやるような親愛の情が見て取れた。

企画部に庶務課から助っ人として来たばかりの頃の彼女を思い返しても、警戒心が強く、関わりたくないというオーラが口に出さなくても伝わってくるほどだった。