というのは体の良い建前で、触れられれば甘えたくなってしまう自分を律するのが大変だから。

「新事業部にはいつから行けばいいんですか?」
「辞令がいくのは来月。でも引き継ぎ終わったらすぐにでも」

私の言い分を理解してくれたのか、手を引っ込めてまたコーヒーを口に運ぶ。

自分で律するように言ったはずなのに、あっさりと引かれて少し寂しく感じてしまったのは内緒だ。

「異動。私が庶務課から、新事業部……」

正直いきなりすぎて全く実感が沸かない。

前回『calanbar』のプロジェクトに携わったのは助っ人というポジションだったから、まさか自分がその一員になるとは夢にも思っていなかった。

「まだ少人数で部署内も課分けされてないから、仕事は多岐に渡る。大変だろうけど蜂谷なら出来ると思う。新事業部のアシスタントはお前しか考えられなかった」
「天野さん……」
「だから総務部長に無理言ってお前を庶務から引っこ抜いてみた」

イタズラが成功した子供みたいに笑う翔さんに胸がきゅんと鳴った。

どうしよう。嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。

あの翔さんが私を認めて、必要としてくれたことが本当に嬉しい。

「ありがとうございます。精一杯頑張ります」

満面の笑みでそう告げた私を見て、翔さんも頷いてくれたもののどこか不服そうな顔をしているのが気になった。

「あの、天野さん?」
「お前って、ほんと色んなところで可愛がられてんのな」
「はい?」

何を言おうとしているのかがわからず首を傾げる。