教室には誰もいなくて、ちょっとだけ頬を染めた太陽の光がきらきらと差し込んでいるのが見えた。


外は寒いから、制服の上にコートを着て、そして首にはマフラーを巻く。



なんてことない、赤と紺のチェックのマフラー。



いつだったか、私の好きな人がくれたマフラーだった。



懐かしいな。



そのマフラーの匂いを嗅いで、ちょっとほっとする。



もう彼のあの爽やかな柑橘系の匂いは消えてしまったけど、今でもその匂いを忘れられない。



もう彼はこのマフラーを私にくれたことを覚えていないかもしれないけれど、私にとっては宝物だ。



「なにしてんの?」



誰かに低い声で尋ねられて、私ははっと顔をあげた。



「…っ、輝羅くん…」



あの時と全く変わらない、いや、もっとカッコよく変化した彼…つまり私の好きな人が、そこに立っていた。



彼と目線を合わせるのはいつぶりだろうか。



「莉桜…」



輝羅くんの目が、いつもと違った。



まるで愛しいものを眺めているかのように、私から目線を離さなかった。