いやぁだぁ。
 (あんたのせいよ!)
 しっかりつかまえていた実取(みどり)の腕にやつあたり。
 ぎゅううう…とつねると、実取がわざとらしく身体を傾ける。
「いててててて! イチローさん、かんべん、かんべん」
「だれがイチローだっ」
 お姉さんのおしおき、よーくおぼえておきなさい。

「ねえ、結城さん」
 実取が腕をさすりながら結城先輩に笑いかける。
「ん?」
 まだ笑いを声に残しながら結城先輩が眼鏡のフレームをちょっと押し上げた。
 (はぁ……)
 おとなだぁ。
「もしテニス部のキャプテンともめたら――。実取はテニスより女を取りました…ってことで、お願いします」
 はぁ?
 なにを言いだしたの、この子は?
「ぼく、イチローさん、好きだから」
 (んなぁ?)
 ごんっ!
 びっくりしてのけぞったら倉庫のドアに頭がぶつかって。
「いったぁいぃぃ」
「こらこら、上級生をからかうな、実取」
「姉ちゃん……本気にするかぁ、ふつう」
「なんで? 本気だよ、おれは」
 …とかって。
 ふざけた男どもの笑いがアリーナにわっはっは三重奏。

 くぅそぉぉぉ。
 実取 (じゅん)
 入ってこい、入ってこい。
 おンもいっっっきり!
 しごきまくってやるからね。




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筆者(注
準が「ぼく」「おれ」を使い分けるのは、誰に向かって話しているかで男性は人称を変えるイキモノだからです。
校正ミスではありません。
(^_^;)