「ああ、いやされるぅ」
 益子先生の額に浮かぶだろう青筋は、この際、考えない。
 なにしろベンチに座ったわたしの膝のうえで、真っ白なリポート用紙がひらひら風に揺れている、大変にまずい状況。
 まず考えなきゃいけないのは、この真っ白を文字で埋めつくすことだから。

「なーんだ。部室にいないから探しちゃった」
 突然の声にあわててリポート用紙を取り上げて、真剣に悩む、ふり。
「…さぼってんじゃないのよ。(じゅん)
 声でだれかはわかるから、とりあえずキャプテンとして返事をする。
 もちろん真剣にリポート用紙をにらんでいるポーズも忘れずに。
 そこに、ぬうっと人型の影。
「自分だって。…部室で真面目にやってると思ったけどな。――真っ白」
 のぞかれたら、ばれちゃうわね。
 カムフラージュはあきらめて、ベンチにリポート用紙を放り出す。
「なんでここがわかった?」
「ああ…」準があたしの頭のうえでくすっと笑った。
二紀(にき)がこんな、絶好の密会スポットを見逃すわけないでしょ。バド部に入ってすぐ、ここでバスケ部のキャプテンさんをナンパしてたよ」
 あ…んの、くそガキ。
 姉は恥ずかしいわっ。
「二紀はシスコンだからねぇ」
「――――ぇ」