獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 その様子を前に、私は自分がいかに大胆な提案をしたのかに思い至り青くなった。
「す、すみません! 尻尾のマッサージだなんて、恐れ多いことを申しました!」
「いや、是非頼もう」
「え?」
「ブラシはそこの棚にある物を適当に使え」
 言うが早いか、マクシミリアン様はソファに腰を落とし、尻尾をバサッと投げ出した。
「どうした? 早くやれ」
 まるで私を手招くように尻尾の先がちょいちょいと揺れる。
「は、はい!」
 弾かれたように棚上のブラシをひとつ手に取ってマクシミリアン様のところに行き、ソファの足元に膝立ちになった。
 念願のモフモフの尻尾を目前にして、鼓動が胸を突き破りそうな勢いで鳴っていた。
 ……うそでしょう? 亡き父のように、ブラッシングを許される日を夢見ていた。
 それがまさか、こんなに早くに実現するなんて思ってもみなかった。
 私は夢心地のまま、モフッと鎮座する垂涎ものの尻尾に向かってそっと手を伸ばした。
「失礼します」
 高鳴る鼓動を抑えつけながら、ひと声かけてから戴くように、ついに尻尾に触れる。