獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「ぶつかってすらおりませんもの、怪我などしようがありませんわ。それよりヴィヴィアン様こそ、ずいぶんとお急ぎのご様子。私は大丈夫ですから、どうぞ陛下の元に向かってくださいませ」
 サリーはこの状況で、真っ先に私への心遣いを見せる。
「いいや、決して急いでいたわけではないんだ……。恥ずかしい話だが、僕は怒りのあまり平常心を欠いていたらしい。君に怪我をさせずに済んだのがせめてもの救いだ」
 怒りに支配されすっかり周囲の状況確認を疎かにしていた。皇宮に従事する者として、こんな不注意はあってはならない。
「まぁ、一体なにがあったのですか。よろしかったら、私にお聞かせ願えませんか?」
「え?」
「いえ。私ごときが聞いたところでどうということもないのですが、話すことで少しでもお心が軽くなるやもしれません」
 逡巡する私に、サリーはふわりと微笑んでさらに言葉を続ける。