本音では今からでも地方創生大臣に謝罪と発言の撤回を求めたかったが、彼がいち皇宮従業者の言葉に耳を貸すとは思えなかった。
 なにより、いっときの感情に身を任せ事を荒立たせては、後々マクシミリアン様の迷惑になるかもしれない。
 なけなしの自制心でグッと口を引き結び、無言のまま大臣らの脇を通り過ぎた。

 怒りが冷めやらぬまま政務エリアを出て、カツカツと皇宮の回廊を進む。歩みの速度を緩めぬままマクシミリアン様の居室区画に続く角を曲がったその時――。
「きゃあっ!!」
 前から歩いてきた女官とぶつかりそうになった。私は咄嗟に身を引いて衝突を避けつつ、仰け反るような格好の女性が間違っても転んだりしないよう、その肩をしっかり支えた。
「すまない! 大丈夫か!?」
 私の腕の中で身を硬くしていた女官がゆっくりと顔を上げる。
「まぁ、ヴィヴィアン様!」
「サリー!」
 なんと、私のファンを公認するサリーだった。
「ごめんよサリー、驚かせてしまったね。怪我はなかったかい?」