「いいえ、お母様! 男装があの子にとって負担だというのはお母様の幻想ですし、この際どうでもよいのです! そうではなく、私はあの天性の女ったらしを皇宮にやったらひと悶着もふた悶着も起きるのではないかと、そこを心配しているのですわ!」
 お母様の言葉の途中を、マリエーヌ姉様がピシャリと遮る。
 お母様は「よく分からない」とでも言うように、コテンと小首を傾げた。
「ヴィヴィアン」
 マリエーヌ姉様がキョトンとして固まるお母様から、室内の私にギンッと視線を向ける。
「ハ、ハイッ!?」
「いいこと。くれぐれも、皇宮の女官たちをたらしこまないこと! 女官たちにいらぬ諍いを起こさせることのないように注意するのよ。のべつ幕なしに、キラキラしい流し目やら囁きやらを振りまくのも論外ですからね。分かったわね!?」
 とんでもない言い草だ。それではまるで、私が歩く女ったらしのようだ。
 とはいえ、姉様に反論などできようはずもない。私は右手を胸にあて、スッと腰を低くして言葉と態度で了承を示す。
「承知いたしました。マリエーヌ姉様の仰せの通りに」