マクシミリアン様はこの現状を憂い「この条文は自由恋愛と結婚を阻害する前時代的なもので、国際社会における我が国の地位と評価を低下させている」と議会に法改正を提言したのだ。この背景には国際社会、特に、今まさにヴィットティール帝国が国交正常化の交渉を進めているアンジュバーン王国への配慮もある。アンジュバーン王国において身分差別や性差別はもっとも忌避されており、そういった現状を踏まえてのものだった。
「ハッ! 所詮陛下は『耳なし』であられるからな。虎耳と尻尾を持つ我ら生粋の獣人と同じ誇りと志は持てんのだ。ヴィットティール帝国は白虎獣人の国だ。『耳なし』が皇帝とは片腹痛いわ!」
 なんてひどい! 地方創生大臣がしたマクシミリアン様への侮辱に、はらわたが煮えくり返る。
 もっと言えば、いくらここが政務エリア内とはいえ一部の政務高官しか知らないマクシミリアン様の『耳なし』を声高に叫ぶ無神経さに目眩がした。実際にこうして、昨日までこの事実を知らなかった私の耳に入ってしまっているのだから、彼らの無駄話から第三者の耳に入るリスクは大きい。