「承知いたしました。失礼いたします」
 私はマクシミリアン様あてに届いた嘆願書を受け取って、政務官室を後にした。
 ……それにしても、なんで皇帝陛下への直接嘆願がこんなに多いんだろう?
 扉を出たところで、改めて両手に抱えた分厚い嘆願書の束を見下ろして首を捻る。
 差出人は、地方領主らがほとんど。しかし彼らからの相談事は、地方創生大臣が専用の相談窓口を設けて対応にあたっているはずだった。もしかすると、うまく機能していないのかもしれない。
 政務エリアを歩いていると、偶然ふたりの大臣が立ち話をしているところに通りがかった。
 ……なんだろう? ふたりは激昂している様子で、その声はかなり大きい。
「陛下は獣人としての誇りが欠落しているのだ。いくらアンジュバーン王国側からの申し入れとはいえ、我が国が法改正をする必要などまるでない。そうは思わんか、シルバ?」
 地方創生大臣から同意を求められ、財務大臣は深く頷く。
「ゴルドよ、その通りだ! 法律から『身分を超えた婚姻を認めない』との条文を撤廃しては、ますます獣人の血が薄まってしまう」