「国民の顔が獣型でなくなってから、ずいぶん経ちます。虎耳や尻尾の特徴を持つ者も、全国民の一割をきっている状況です。名のある貴族でも耳も尻尾もないなんてことはもうザラで、獣人の特徴はいつ潰えてもおかしくないまさに風前の灯。だから皇帝一族が……マクシミリアン様が、その特徴を持たずにいることもなんらおかしいとは思いません」
 驚くべきことにヴィヴィアンの言葉は、言い回しに多少の違いはあれど、亡き父上が常々言っておられたことと同じだった。
「まさかお前がそんなふうに考えていたとはな」
 それは俺の胸を震わせる、温かで優しい思考。そして俺という存在を容認する理性的で寛容な未来志向の思想だ。
「もちろん僕はがっかりもしていません。ですが……」
 ここでヴィヴィアンは、一旦言葉を途切れさせた。
「ですが、幼少時に額に負った怪我を隠すためにターバンが手放せないと聞いていたので、つるりとした額を拝見して思わずアレ?ってなりました。……ふふっ。でも、こうして近くで見ると少しだけ窪みが残っているんですね。小さい頃に、ぶつけてしまいましたか?」
 耳にした瞬間、熱く心が震えた。ヴィヴィアンの一語一句が、柔らかな温もりでもって俺という人間をまるごと包み込んでしまうようだった。