背後から突如ヌッと湧いて出て、呪いか!?と一瞬怯むほどの嘆きをこぼすのは、私の乳母で今も侍女頭として仕えてくれている婆やだ。
「こらこら、婆や。僕のためにその瞳を涙で濡らさないでおくれ。なにより僕は、男として生きることを嘆いてはいない。さぁ、婆や。君に涙は似合わない、いつものように笑顔を見せておくれ」
 少々煩わしい彼女の嘆き節だが、経験上私の流し目と囁きで止まることを知っている。
「ぬぉおおお~っっ、ヴィヴィアンさま! 婆やはあなた様が女姿だろうが男姿だろうが、生涯お仕えさせていただくことに変わりございませんからねぇ!」
 案の定、婆やは頬をポッと朱色に染めると、皺が深く刻まれた顔にニッカリと満面の笑みをのせる。私を見つめる彼女の目は、キラキラの乙女のそれだ。
 婆やの笑みに、前世日本で私のファンだった女性たちの笑顔が重なった。ファンの年齢層は幅広かったが、皆、婆やと同じように頬を染め、キラキラとした目をしていたっけなぁ。
「フッ。婆や、いい笑顔だ。やはり君には笑顔が似合う」