獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 なにより性別を隠しているのは私だ。「お姫様」は違うけど、君の目は本当は結構イイ線いってる。
 ごめんよ、少年……。声には出せない謝罪を心の中で呟いた。
「うん、分かったよヴィヴィアン! 僕はハミル・ヴィットティールだよ」
「そうか。ハミル・ヴィットティールだな、って……え? えっ!? ぇぇええええっっ!!」
 あっけらかんと名乗られた名前を、うんうんと繰り返し、途中ではたと気づいて叫びながら仰け反った。
 目の前の少年が皇弟殿下という衝撃の事実に、気が遠くなりそうだった。
 それもそのはず、平素皇都から遠く離れたコスタ領の離宮に暮らしているマクシミリアン様の弟君のハミル・ヴィットティール様が皇宮に来られるなんて、マクシミリアン様からも他の侍従らからもなにも報告を受けていないのだから。
「ヴィヴィアン、そんなところでなにを叫んでいる?」
 その時、廊下で佇む私の背中に声が掛かる。
 振り返れば、声の主は政務室から出てきたマクシミリアン様だった。