獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 少年は赤く染まった頬をして、もじもじと恥ずかしそうに口にした。
 この段になると少年が私を女、しかも「お姫様」と認識していることに気づく。これまで私は「中性的」「男らしくない」「女みたい」と評されたことはあっても、「女」と断定されたことは一度もない。だから初対面の彼に「お姫様」と呼ばれたことに、内心の驚きは大きかった。
「ははっ! そうさ、僕は力持ちなんだ。だから君ひとり抱き上げたくらいで潰れやしないよ」
「え……、僕?」
 私があえて軽い調子で答えれば、少年は私の一人称を反復し、コテンと小首を傾げた。
「そうさ。僕は、ヴィヴィアン・モンターギュ。マクシミリアン皇帝陛下の近習なんだ。だから君のいう『お姫様』というのは違っているよ」
「……うそ、男の人? 綺麗だから、てっきり女の人かと……っ。僕、とんだ勘違いをして、ごめんなさいっ!!」
 少年は長いことパチパチと瞬きを繰り返した後で、ガバッと頭を下げた。
「ちっとも気にしてないよ。だから頭を上げて! それに不注意で君を転ばせてしまったのは僕なんだ、君が謝るのはおかしい」