獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 必死に問いかけるが、少年は目を見開いたままピキンッと体を硬くして、一向に答えない。
 まさか、口も利けないほど怪我の状態が悪いのか!?
「……うそでしょう。お姫様が、僕をお姫様抱っこしてる」
「え?」
 私は内心で、物凄く焦っていた。そのせいか、少年がこぼした台詞はすぐには理解できなかった。
 少年と間近に目線が絡む。彼の瞳は純度の高いエメラルドみたいな、綺麗な緑色だった。
「お、お姫様っ! 僕、怪我はないので自分で歩けます! 重いですから、早く下ろして!? お姫様が潰れちゃうよっ!!」
 美しいエメラルドの瞳に見とれていると、突然少年が腕を突っぱね、身を捩りながら訴えた。
 少年の台詞にはところどころ不可解な単語も混じっていたが、「怪我はない」のひと言に胸に安堵が広がる。
「そうか、怪我はないか! それはよかった」
 少年の要求通り丁寧に床に下ろしてやれば、目に見えてホッとした表情を見せる。どうやら少年は、突然の浮遊感に驚いただけだったようだ。
「お姫様は、とっても力持ちなんだね。僕、驚いちゃったよ」