獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 っ、ちょっと待て!! 近習相手に「可愛い」などと、あまつさえ「ずっと俺の隣で笑って」だと!? 俺は一体、なにを考えている!?
 自分の思考の異常さに気づき、弾かれたようにヴィヴィアンから視線を逸らす。
「どうかしましたか?」
「用事を思い出した」
 鈍器で一撃されたように、頭がガンガンと痛み視界が撓んだ。
 それくらい内心の動揺は大きかった。
「え? あの――」
「鎧は衣裳部屋に入れておく。お前は後からゆっくり来い!」
 俺はヴィヴィアンがなにか言うより前に早口に言い置いて、ひとり逃げるようにその場を後にした。
 いくら幼いとはいえ、男であるヴィヴィアンに抱くには不自然すぎる己の想像に愕然としていた。むしろここでは、ヴィヴィアンが幼いことも問題を難解にしているように思えた。小児性愛や同性愛といった単語が嫌でも脳裏をチラつく。
 至ってノーマルと自覚していた己の性的嗜好を根幹から揺るがす、大きすぎる衝撃。
 ……いいや、冷静になれ! 俺は連日の激務で疲れているんだ。そのせいで思考が少しおかしな方向に飛躍してしまったにすぎん!