獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「ははっ! お前はなよなよしげな見た目に反し気骨があるな。ならばこれからも、その調子で真面目に頼むぞ」
 俺が鎧を抱えるのと逆の手でポンッとその背を叩けば、ヴィヴィアンはまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔で俺を見上げる。
「なんだ、阿呆面をして?」
「い、いえ! ……ただ、今日は、どことなく嬉しそうなご様子で。いつもより柔らかな雰囲気に、少し面食らってしまいました」
「……何故、俺が嬉しそうだと思った?」
「僅かですが表情が普段よりお優しいですし、纏う空気も穏やかに感じたので。きっと『私が面白い』以外に、なにかマクシミリアン様を笑顔にさせるような出来事があったのではないかと」
 たしかに今日の朝議でいい報告を聞かされて、気分が軽かったのは事実だ。とはいえ、まさかそれを言い当てられるとは思ってもおらず、ヴィヴィアンの観察眼に内心で目を丸くした。
「現在、我が国と隣国アンジュバーン王国で和平交渉が進められているのは知っているか?」