獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが！

　この一週間、気がつけばいつだって俺の周りを小動物めいたヴィヴィアンが甲斐甲斐しく動き回っている。そんな光景が、すっかり当たり前になっていた。
　そういえば、彼にターバンの下に隠した《耳なし》の秘密がバレたと思い青褪めたこともあった。溜まった政務書類に未明まで噛り付いていた俺はヴィヴィアンの近習初日のあの日に限って寝過ごしてしまい、彼に起こされるという醜態をさらしてしまったのだ。
　あの時はターバンを巻かぬ無防備な頭部を見られたと思った。一巻の終わりすら覚悟して、醜聞として広まる前に己から秘密をつまびらかにすることすら考えた。しかし、彼はなにも気づいてはおらず、全て杞憂に終わったのだが。
「真面目なのは結構だが、他人の仕事まで押し付けられている状況はどうかと思うがな」
「いえいえ！　押し付けられるなんてとんでもない。僕は力だけは余ってますから、このくらいは喜んで引き受けますよ！」
　先ほどの侍従らとは比較にならぬほど男気溢れるヴィヴィアンの受け答えに、驚きと共に嬉しさが込み上げてきた。