獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「まぁまぁ、どうせ顔だけさ。ひょろひょろとした体形にあの細腕だ。あれだけの重さの荷物を全部運べるわけがない。いつ泣きついてくるか見ものさ。ついでにサリーちゃんが奴の情けない姿を見れば……」
「そりゃあいいな! アンナちゃんの目も覚めるぜ!」
「そしてタイミングを見計らって俺たちが登場してさっそうと荷物を運んでやれば……サリーちゃんは俺のものだ!」
「お前天才だな! 待ってろよ、アンナちゃん!」
 私に荷運びを命じたふたりがコソコソと話していた。
 ……聞こえてる。全部全部、聞こえてる。
 だけど、私にとっちゃこんなのは造作もない。かつての私は背中に十キロ以上もある羽を背負って歌って踊って、日に二回の公演を走り抜けていたんだから!
 なにより獣人の血を引く今は、前世より体力的には余程タフになっている。
「ふんぬっっ!!」
 なんのこれしき! 鼻息荒く右肩に鎧ふた揃いを担ぎ、左腕で木箱ふた箱を抱えて立つ。
 ……うん! 慣れない娘役をリフトするより、ずっとずーっと楽勝だ!
「うそだろ!? あいつ、持ちやがったぞ!」