獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 幽閉塔の上階には、貴人用の収監部屋も備えていた。皇太后の処遇に関し便宜を図るつもりなどさらさらないが、その身分や過去の判例を鑑みれば、下される処罰は生涯幽閉あたりが妥当だろう。
「さて。温情とは分からぬことだ」
 実際問題、ハミルの皇統離脱の寂しさを別にすれば、母に対し思うところはなにもない。
 俺はトンッとハミルの肩を叩き、腰を上げるように促す。ハミルは涙の膜の滲んだ目を一度ギュッと瞑ってから、しっかりと前を見据えて立ち上がった。
「……今日はなんていい天気でしょう」
 ふいにハミルが目を細めポツリとこぼす。その言葉につられるように、俺とヴィヴィアンもハミルの視線の先を追う。
「気持ちがいい晴天だな」
「……本当、抜けるような青空ですね」
 かつて窓だったそこからは、今は遮る物がなく悠々と空が広がっていた。
「はい。まるで天が、ヴィットティール帝国の新たな時代の訪れを祝福しているかのようです」