獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが！

「僕が、グリュンフェルト辺境伯に……？」
　彼の地の重要性を正しく把握しているのだろう。ハミルは目を見開いて俺を見上げた。
「グリュンフェルト辺境伯領は皇都からは遠いが、肥沃な土に恵まれた豊かな農耕地だ。我が国の穀倉庫と言って過言でない。さらに、隣国との国境の要となる重要な土地でもある。グリュンフェルト辺境伯として、健全な領地運営に励め」
「はい、兄さ……いいえ、陛下。謹んでお受けいたします。……此度の陛下のご温情に感謝いたします」
　ハミルは「兄様」と言いかけたが、途中で「陛下」と言い直した。ハミルから、もう二度と「兄様」と呼ばれることがないと思うと、胸に一抹の寂しさが過ぎった。
　そして目に涙を浮かべ、深々と頭を下げるハミルは、きっと俺のもうひとつの思惑に気づいている。
　グリュンフェルト辺境伯領は遠い時代から流刑地としての側面を持ち、今も幽閉塔がある。罪人を収容し、農耕の労働に従事させているのだ。